小川的実験実践宅録集第1巻公開記念インタビュー

7月に新作「Absolute Home dance」を発売し、10月に旧グッゲンハイム邸でレコ発ワンマンを終えたばかり。そんな中、突如公開されることとなった「小川的実験実践宅録集第1巻」。本作収録曲について、また当時を振り返って今と昔の変化についてインタビュー。なかなか普段多くは語らない小川洋平の本作公開に至った理由や自作に込められた思いを紐解いていく。

さあ、次は何をしよう

ー本日はホームページ掲載のインタビューということでよろしくお願いします。

お願いします。

ー今回は、どのようなアルバムになっていますか?

僕のMTR(マルチトラックレコーダー)時代、自分でマイクとか立てて宅録してた時代のデモを、僕が“リマスター”、まぁちょっと聞きやすくしたものですね。

ーどうして今回このアルバムを作ろうと思ったのでしょうか。

「Absolute Home dance」っていうアルバムを作ったんですけど、僕ってアルバム単位、制作単位で物事を進めていくんです。2枚目(Absolute Home dance)作り終えた後から「次何しよっかな」とずっと考えてまして。曲を書いてもいいんですけど、 昔の歌をもう1回聞いてみようかなと。もともとはそれを基に録り直して、再収録して出そうかなと思ったんですよ。でも聞いてみたら面白い音源もあって。演奏技能とかそういう微妙なところもあるんですけど、それも含めて楽しんでもらえたらいいのかなということで、今回リリースすることにしました。

ー昔の曲をやることに驚いた人も多いと思うのですが。

そうですね、仲間内ではよく言われました。

ーそこに火をつけたものは何かあるのでしょうか。

最近「オロオロラジオ」(以下2人と共に放送するインスタ生配信番組)で、ガリザベン、青木拓人のそれぞれの初期の曲を聞かせてもらって、彼らの今の芸風と全然違ったんですけど、それもいいなあっていう話を3人でしていて。それは発端になってると思うんですよ。まあでも一番の発端は「次何やろうかな」ってことですね。カバーをやろうかなあとか、自分のリメイクもしたいっていう。実はどこにも言ってないというか毎回できてないだけなんですけど、今回の「Absolute Home Dance」とかですね、「orange peel」「朝と夜の日々」「飄々と突風」もそうなんですけど、その4作品っていうのは全部、弾き語りでもやりたかったアルバムでもあるんですよ。弾き語りバージョンも実は作りたいけど、予算的に諦めてたとこがあるんですね。そんな気持ちがずっとある中で、「次何やろうかな」って時に、今の自分で昔の楽曲をやったらどうなるんだろうっていうのが一番の発端じゃないですかね。だからほんま初めは新録する予定だったんですよ。新録する予定でどの楽曲を新録しようかなあと思って聞いていたら、「このままでいいかもね」って思ったっていうことです。

自分だけど違う人(自分)

ーそれぞれの曲はいつ制作したんですか。

11曲あるんですけど、2010〜2014年っていうことは確実なんです。ただ作ったのがいつなのかというのは、あんまり正確にはわかってないんですよ。2015年に全国流通盤の「飄々と突風」を出すので、その前までという感じですね。

当時のデモの一部。小川自身忘れてしまい、借りたものも。

当時のデモの一部。小川自身忘れてしまい、借りたものも。

ー2010年ということは10年以上前で、大学を卒業したあたりでしょうか。

そうですね。23歳ですから、大学卒業して大学院に行ったあたりかなと思いますね。ほんとに外で活動し始めた初期やと思います。

ー改めて昔の曲を聴いてみてどう感じましたか。

自分じゃないような感じもありましたね。10年近く経っているものが多いので、ライブで1曲もやってないんですよ。すごく新鮮なところもあるし、懐かしいところもある。ある程度年月が経って、客観的な楽曲になっていってるので、自分のような自分じゃないような感じです。

ーライブで披露していない理由は何かあるのでしょうか。

何でしょうね。単純に、自分の中で今に近くなればなるほど良いものを作ってるっていう、自分の腕を磨いてきたっていう思いがあるからですかね。バンド時代の曲なんかは特に、今弾き語りで活動することが多いし。バックメンバーをいれても基本的にソロっぽい曲をやってるんで、そういう違いもありますね。

ー今回の公開を期に、本作をまた披露しようと思っていますか。

やってもいいなと思いますね。当時のバンドメンバーも今と基本は変わってないので、再現というかブラッシュアップすることはできるかもしれませんね。

当時撮影されたもの。ミュージックビデオの一部と思われる。

当時撮影されたもの。ミュージックビデオの一部と思われる。

ー楽器や詞はどのように変化してきたと思いますか。

バンド時代とか特にそうなんですけど、やっぱりパワフルなんですよ。若いっていうのもありますし、ロックバンドなんで組み立て方とか全体的にパワフルですね。僕がすごい根本的に影響を受けている60年代とか70年代のロック音楽に近いというか、僕の根本的なところがわかる楽曲が多いなと思います。詞に関しては当時の方が込み入ってるかなと思います。近頃では、変態さをうまく隠すことができるようになってるって言われるんですよ。今回公開しているのは(外で活動し始めた)初期なんで、変態を隠しきれていない感じもあるのかなと思いますね。

ー変態さは時代と共に変化したというよりは隠しているのでしょうか。

どうでしょう、根本的なところはたいして変わっていなくて。良い音楽っていうのはどういうことだろうなっていうのは、僕が続けるっていうよりかは聞いた人が伝えていくことなのかなと思うので、伝わるところがないとダメだなって当時考えたんでしょうね。だからそこらへんから、より客観的な試作をするようになっていっていると思いますね。

ー本作の曲解説(ホームページに掲載)の中に、「僕の曲は10年先かもしれない」、「年寄りがかっている」という言葉がありましたが。

年寄り向けには書いていないですよ。本当の年寄りは僕の曲聞かないと思うんで。若いかある程度イマジネーションがある人じゃないと、僕の楽曲の旨味というか真意というか、それが理解できないと思うんですよね。そういう縛りはあると思うんですけど、届く人に届けばいいなと思ってやってますね。

ー「今の曲も10年後ちょうどよくなるかも」と解説の中でありましたが、どういった意味でしょうか。

曲にもよるんですけど、僕が「orange peel」作った後くらいから適応障害になって、転職して1年ちょっとぐらい経つんですけど、だいぶ精神状態も回復して、元気な部分も自分の中から出てきて、一番元気やった自分に会えるというか。そういう意味で(10年後が)ちょうどいいっていうのもありますね。今回楽しくリマスターできたっていうのは、楽曲自体パワフルな楽曲が多かったから。エネルギッシュというか。元気付けられながらやってたところもあると思います。今の楽曲とは違った良さがあって良かったですね。

デジタル主流時代に聞く“宅録”

ー今回の選曲はどのようにしたのでしょうか。

単純に聞けるなっていうやつとか、思い出深い曲とかですね。よくお客さんにコメントをもらえた曲とかを選んだつもりです。全部やってもよかったんですけど、あまりに時間とか体力がかかっちゃうので、抜粋することにしました。

ー元の音源から変えたところはどこでしょうか?

今ってパソコンで編集することが主なので、編集が見やすくなってたりとか、操作しやすくなってるんです。ちょっと前まではそういうのがとても高級なシステムで、若者とか学生にはとても使えないものだったんですよ。なので、自分の耳でやるしかなかった。コンプレッサーとかそういう編集専用の機械にしても、パソコンのように気軽に設定をいじったり、やり直すっていうのがすごい難しかったんです。一発勝負だし戻れない。だから、よく言えばワイルドな音になっている音源も結構あって(笑)。それを配信に合うように少し落ち着かせたっていう感じですかね。聞きやすくなってると思います。

ー昔できなかったことが今の文明や技術でできましたか。

いや、全部は無理ですね。技術上の限界もありまして。確かに昔のデモは残ってるんですけど、混ぜ合わせる前、例えばドラムトラックだけとか、ギタートラックだけとかっていうのは全く残っていないんですよ。楽曲として合わさった状態でしか残っていないんですよね。それをちゃんとそれぞれのトラックで残してたら、ちゃんと楽曲自体の修正ができたんですけど、そこまではできなかったので、心残りですね。

ー昔のように3ピースバンドや一人で全て行うマルチプレイをもう一度やってみたいと思いますか。

あぁそうですね。両方もう一度やってみたいと思いますよ。同じ人でもいいし、同じ人でなくてもいいですけど。マルチプレイヤー的な楽曲っていうのは最近やってないですけど、またやってみようかなとちょっと思ってますね。それをYouTubeで動画にしてもいいかなと思ったり、考えてはいます。漠然とですけどね。

ー曲解説にありましたように、その中でもドラムは難しいと感じているようでしたが。

やっぱ、叩くものが多いじゃない(笑)。6本の弦弾いててあれですけど、やっぱりね、ドラムは多いんですよ。あと、例えばハイハットっていうね、ドラムの基本的なパーツがありますけど、あれ1つとっても状態が色々あるんですよね。閉じているハイハットもあれば、開いているハイハットもあって、組み合わせで結構パターンができる。そういうところですよね。

ー全体を通したテーマは何かありますか。

宅録だということですね。スタジオ録音のもの、例えばエンジニアの人が入っているとか、そういうのが1曲もないです。僕が自分でマイクを立てて、僕が自分で録音して自分でミックスしてっていう楽曲がすべてなので、“All OGAWA Made”というのが一貫してるんじゃないですかね。

バンド合宿中。2013年。

2013年、バンド合宿にて。

最後に伝えたいこと

ーここを聞いて欲しい!というところはありますか。

僕はいつも自由にやってきましたし、聞いている人にも自由に楽しんで聞いてもらえたらいいなと思っています。ひと通り聞いてみて、若いなと思ってもらうもよし、笑ってもらうもよし。今と詞とかも全然違ったりするので、面白いなと思っていただければいいのかなと。いい曲やなって思ってもらえる曲もあるのはあるんかなと思いますね。

ー最後に、聞いてくれる人にメッセージをお願いします。

毎夜遅くまでがんばってリマスターしましたので、ぜひ楽しんで聞いてください。

ーありがとうございました。

ありがとうございました。